天体写真を撮影していると、気温の変化による焦点のずれが問題になります。特に異常分散ガラスをレンズに使用したものはその傾向がとくに大きいようです。Canonの一部の望遠レンズは白を基調にしたカラーリングがなされていますが、直射日光による温度変化を出来るだけ少なくなるようにするためだそうです。
 蛍石レンズを使っているNew FD 300mm 2.8Lおよび大口径UDレンズを使っているNew FD 400mm 2.8Lが温度によってどの程度影響を受けるのか確認してみました。
 NewFD
■温度測定の方法
 気温の変化とともに鏡胴温度がどれぐらい変化するかを確認するため、温度センサとしてシリコンダイオードを鏡胴に張り付けてみました。シリコンダイオードは電流を流したときに0.6V程度の電圧降下(Vf)が発生します、Vfには温度依存性があり約-0.002V/℃の割合で変化するので、Vfから温度を推定することができます。
 Vf = 「25℃時の順電圧」+「-0.002V × 温度変化(℃)」 

 手持ちのダイオード(1N4007)を3本使って温度-Vfの関係を調べてみたとこと以下のグラフが得られました。2~20℃までは、ばらつきも少なく一次関数的な挙動を示しているので外挿して簡単に温度に変換できそうです。
温度-Vf特性

■レンズと温度変化
 外気温とレンズ鏡胴の温度を測定しながら、3時間ほどの温度変化を測定した結果が以下になります。
   20:45 室内での温度
   21:00 ベランダでの設置完了、撮影開始
   24:00   撮影終了
 428の温度センサは外気温より低い温度を示していますが、これは天頂へ向かう面にセンサをつけてしまったため放射冷却による温度低下によるものと考えられます。逆に328の方は、地面に向かう面にセンサをつけたため放射冷却の影響が少ないのでしょう。328のグラフからはは温度順応に2時間程度かかる様子が見て取れますが、428のグラフからは気温が安定していても放射冷却からどんどん温度が下がることが予想できます。
時間温度特性

■New FD 300mm F2.8Lの焦点距離変化
 バーティノフマスクを使いどの程度焦点がずれていくのか確認しました。右下の00:00が撮影開始(21:00)のものになります。GIFアニメーションからどんどん焦点距離がずれていくのが分かりますね。2:30と3:00のものはほぼ同じ回折像を得られているので、温度順応には2時間30分ほどかかることが分かります。
328焦点移動
3時間経過後の星像とピント調整後の比較写真を示しますが、星像が全然違いますね。
ピントずれ
 初期のピント位置と3時間経過後に再調整したピント位置を比較するため、ピントリングにバーニアをつけてみました。副尺は少し間違えていますが測定には問題ないです。3時間経過後のピント位置は無限大の方向へ1mmほどずれていることが分かります。
バーニア初期


■New FD 400mm F2.8Lの焦点距離変化
 バーティノフマスクを使いどの程度焦点がずれていくのか確認しました。右下の00:00が撮影開始(21:00)のものになります。GIFアニメーションから焦点距離がずれていくのが分かりますが328ほど顕著なずれではないですね。2:30と3:00の回折像を比較してもまだ移動しています。温度順応には3時間以上かかりそうです。
428焦点移動
3時間経過後の星像とピント調整後の比較写真を示しますが、NewFD 300mm 2.8Lほど大きくずれてはいませんが、明らかにピントがずれていることが分かります。
ピントずれ
 初期のピント位置と3時間経過後に再調整したピント位置を比較すると、無限大の方向へ0.75mmずれていることが分かります。
 バーニア

■まとめ
 最初は400mm F2.8のほうが大口径なので温度変化に敏感だと予想していましたが、結果は300mm F2.8の方が気温に敏感だとわかりました。428はUDレンズが2枚、328はUDレンズ1枚+蛍石レンズ1枚の構成になっていますが、上の結果から蛍石レンズは温度変化による焦点距離移動が多いことが分かります。
 温度順応については、鏡筒の温度は比較的早く外気温まで下がりますが、バーティノフマスクでのピント移動を見る限り中のレンズまで十分に温度順応しておらず、2~3時間ほど順応時間が必要になりそうです。撮影中はこまめにピント位置を確認する必要がありそうです。